ドラムは心臓が刻む音だろ? それで、ベースが頭脳(ブレイン)だ。
このふたつが揃って完璧になる。ハートと思考がひとつの世界を作り出すんだ。 LEE "SCRATCH"PERRY―

Nov 23, 2009

THIS IS IT

「THIS IS IT」を見た。

オープニングは、世界から集まったマイケルチルドレンたちのオーディション風景から。小学生のころ繰り返し見ていた「コーラスライン」を思い出す。神と同じ舞台に立てる喜びを、ある者は笑顔で、ある者は感極まって涙を流し、カメラに語る。彼らは、数カ月先に起きる悲劇を知らない。それだけで早くも泣きそうになった。

ダンサーだけでなく、ミュージシャン、VFX、衣装、美術、舞台監督・・・多くの才能が集結して、この舞台を成功させるべく努力している。そしてその誰よりも、ほかでもないMJがこの舞台に全てを捧げているのがわかる。健康状態という意味ではない。パフォーマーとして、コンダクターとして、彼が細部にまでソウルを込めているのが伝わってくるんだ。スタッフのひとりひとりは、MJに憧れてこのプロジェクトに参加したことだろう。ただ、MJの仕事ぶりに接するうち、プロフェッショナルとして敬服し、偶像としてではなく、偉大な指導者として認めるようになったんだと思う。でもね、やっぱりみんな楽しそうなんだよ。MJの描くファンタジーに魅了されてる。MJのリハを見ることができる、世界一幸せなオーディエンスたちだ。

それにしてもリハを重ね、舞台を作り上げていくMJの姿は圧倒的だった。イメージは明確で、キーやテンポ、照明、立ち位置・・・すべてが見えている。そして、それは観客の心にいかに手を伸ばすか、という一点に注がれている。あくまでフォア・ザ・ファン。そう考えると、神がかりなパフォーマンスを見せる教祖が、むしろ敬虔な信者の姿に見えてくるから不思議だ。観客にひとときのイリュージョンを。そのためだけに生きる。歌い、ダンスするときの全能感と同時に、それは自分のためではなく、人のためであるという主語の消失。そんな乖離を思った。MJにとっての現実とは何だったのか? プライベートとは? ここでもない、あそこでもないどこか。ネバーランド。親とはぐれ、年をとらなくなった子どもたちが妖精と暮らす架空の国・・・。

浅はかな想像はこの辺にしよう。

正直なところ、僕にとってMJとは「THRILLER」と「BAD」で有名な、ただのポップスターだった。音楽はむしろ、ジャクソン5時代を愛していた。さらにいえば、とんねるずのダンスの元ネタであり、整形しまくりの変人であり、ゴシップの宝庫であり、ムーンウォークの人だった。

でも今は違う。かけがえのない特別な存在だ。それは改めて多くの作品に触れ、彼の創造性に深く深く感動したから。ただ、そのきっかけになったのが彼の死だということが残念でならない。もう彼はいない。きらめく才能の目撃と喪失感。この映画の感想は、胸を引き裂かれるような悲しさに尽きる。

マイケルにどうか安らかな眠りを。
R.I.P.


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