ドラムは心臓が刻む音だろ? それで、ベースが頭脳(ブレイン)だ。
このふたつが揃って完璧になる。ハートと思考がひとつの世界を作り出すんだ。 LEE "SCRATCH"PERRY―

Jul 8, 2010

バイバイ、ブラックバード

伊坂幸太郎『バイバイ、ブラックバード』

まるで、ひとつのテーマをバンドメンバーが次々に演奏するような小説。

ジャズスタンダードから取られた曲名から考えれば、そう表現すべきかもしれない。でも、僕にとっては「ドンブリ」という東京在住の一市民が本来知る必要のない、関西のお笑い用語の方が感覚に合う。そんな小説だった。

あらすじは、借金を背負った男が、その精算に「あのバス」に乗せられて帰ってくる者のない場所へ連れ去られる・・・その前に、五股をかけていた女性、全員に別れ話をしにいくという話。おっと大切なことを忘れていた。その男の横には、「あのバス」にその男を乗せるべく彼を監視する、この世の者とは思えないほど凶暴で、人が傷つく姿を何より愛す、怪獣のような巨大な女がいる。読んだらすぐわかるけれど、彼女はマツコ・デラックスそのもの。いや、そのものじゃないんだけど、頭のなかで勝手に変換されてしまう。それは、『砂漠』という作品の主人公・西嶋がサンボマスター・山口隆にしか思えなかった以上に、不可抗力だと思う。

ドンブリと例えたのは、各章が「その女性とのドラマチックな出会い」「彼女への別れ話」という構成が繰り返され、マツコの暴言、彼女の辞書にまつわる変わった習慣、男の天然すぎるキャラクターが「お約束」として乗っかっていくから。漫才を見ていて、ここであのボケが来る!と予想して、その通りにボケが来たときの爽快感。もしくは一体感。読んでいて、そんな感覚を持った。

この小説、もともと50人限定で「郵便で届く小説」として書かれたものだったそう。純粋なエンターテインメント作品に仕上がったのも、このシステムのために書かれたからかもしれない。とはいえ毎回、CMまたぎのようなこざかしい引っ張りは一切ない。素晴らしい。こんな上質な作品が、家に届くなんて、なんという幸せ。今さら、うらやましい。。。毎日、楽しみに郵便ポストをのぞく日々。悪くないよなー。



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